出会、

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歩いて、歩いて、歩き続けて――彼女は先ほどの家に帰ってきた。 「いらっしゃい」 仮面の男は外に小さなテーブルとイスを出し、紅茶を飲んでいた。彼女が罰が悪そうに顔を歪めたが、構わないように新しいカップに紅茶を注いだ。 「疲れたろう。飲むといい」 彼女は唇を噛み、言われるままカップを持った。薄い陶磁器ばかりに慣れていた指には、不恰好な白磁のカップはあまりにも似合わなかった。 「怪我は?」 「……してない」 彼女が引き返してきたのは、先に大きな川があったからだ。 泳いで渡れないことはないだろうが、泳いだあとを考えると怖かった。 濡れた服で歩けるとは思えなかったし、服を脱いで泳ぐという選択肢はなかった。 何より、崖の上から落ちてくる滝が――異常に怖かった。 紅茶を一口飲む。温かい、だが――苦い。 「……苦いわ」 「そのまま飲むものではないからな。蜜とジャムを溶かして飲む」 言われるままに蜜とジャムを入れるが、葉自体の匂いなのだろうか、後に残る渋さは消えなかった。 「……不味い茶ね」 「そのうちわかる」 まるで子供扱いされている声色に顔を歪めたが、言い返す前に仮面の男が先に話し出した。 「ここらの崖は地盤沈下が原因だから、登れるような場所もない。だから街は諦めて外に道を回したんだ」 仮面の男の言葉に、彼女は噛みつく言葉も忘れた。道がない。それだけが理解できた。 「今日は泊まっていけばいい。明日の朝にここを出れば、昼には街に戻れる」 戻りたくない。 出かかった言葉を喉の奥で殺し、代わりにスカートの裾を握った。仮面の男にそれを言うのは卑怯だと思ったし、誰かにすがりたくなかった。 「……わかった」 言いなりになるのは嫌だが、駄々をこねるだけの子供だと思われるほうが嫌だった。 「……ベッドの用意をしてこよう」 仮面の男は静かに言い、カップを持って立ち上がった。 太陽はもう、西に傾いていた。 .
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