♯3 麻痺。

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体中が痛くて、眠れないまま夜が明けた。 「おはよう、眠れた?」 朝、先生が様子を見に来た。 朝食とにらめっこをしていたあたしは、その険しい顔のまま先生を見た。 「……眠れなかったみたいだね。食欲は?」 朝ごはんどころではない。 口の中が、痛くてしみる。 夜中に水を飲もうとして悶絶したくらい。 頬が痛い…。 そういえば、階段から落とされる前に、パンチをくらった。 思い出して、左の頬をさする。 「…あらら、少し腫れてるね。昨日は気付かなかった。」 ……医者のくせに。 もしかしてまだ新米? 研修医とか? 「今、医者のくせに、とか思ったろ。」 「…思ってません。」 「待ってて。冷やすもの持ってくるから。」 そう言って、出て行った。 パタパタと、スリッパを鳴らす先生。 その小走りの足音が、妙に耳に残った。 やっぱり、新米のペーペーなんだ。 そんな雑用、看護師さんに頼めばいいのに。 頬に手を当てながら、明るくなった室内を見渡した。 ベッドの上に、担当医の名前があった。 『伊木 航平』 いぎ…?こうへい。 さっきの先生かな…。
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