♯3 麻痺。

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「俺、車椅子持ってくるよ。」 そう言って、病室から出て行こうとした先生を、看護師さんが止めた。 「私が行きますよ。先生は、岡さんお願いします。」 あたしを伊木航平に預けた看護師さんは、笑顔で病室を出ていった。 「…車椅子なんて…、大袈裟…」 声が小さくて聞こえなかったのか、先生はあたしの腕を支えたまま、何も言わなかった。 このまま、この人に寄り掛かれたら、どんなに楽だろう。 あたしは先生に寄り掛かりたかった。 泣きそうになった。 でも、なんとかこらえた。 看護師さんが持ってきた車椅子に座らされたあたし。 病室を出た所で、遠くからこっちに向かって歩いてくる中尾の姿が目に入った。 膝の上に置いた手に力が入る。 あたしは俯いて、そのまま顔を上げることが出来なかった。 「ひかり!」 とっさに腫れた左の頬を隠した。 …怖いよ…。 「中尾さん、これから検査ですので…。」 と言って、あたしに近づこうとした中尾を止めてくれた。 「俺、ついて行きます。」 「いえ、看護師が付き添いますので。待合室でお待ち下さい。」 中尾を遠ざけてくれた先生。 すごく、有り難く思った。
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