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「俺、車椅子持ってくるよ。」
そう言って、病室から出て行こうとした先生を、看護師さんが止めた。
「私が行きますよ。先生は、岡さんお願いします。」
あたしを伊木航平に預けた看護師さんは、笑顔で病室を出ていった。
「…車椅子なんて…、大袈裟…」
声が小さくて聞こえなかったのか、先生はあたしの腕を支えたまま、何も言わなかった。
このまま、この人に寄り掛かれたら、どんなに楽だろう。
あたしは先生に寄り掛かりたかった。
泣きそうになった。
でも、なんとかこらえた。
看護師さんが持ってきた車椅子に座らされたあたし。
病室を出た所で、遠くからこっちに向かって歩いてくる中尾の姿が目に入った。
膝の上に置いた手に力が入る。
あたしは俯いて、そのまま顔を上げることが出来なかった。
「ひかり!」
とっさに腫れた左の頬を隠した。
…怖いよ…。
「中尾さん、これから検査ですので…。」
と言って、あたしに近づこうとした中尾を止めてくれた。
「俺、ついて行きます。」
「いえ、看護師が付き添いますので。待合室でお待ち下さい。」
中尾を遠ざけてくれた先生。
すごく、有り難く思った。
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