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「お世話になりました。」
看護師さんたちに、ぺこりと頭を下げた。
伊木航平は、居なかった。
手術中らしい。
あの先生、そんなこともできるんだ。
と、感心した。
病院を出たところで、足が止まる。
……どうしようか。
でも…、行くとこなんてないもん……。
自分のアパートに帰るしかないよね…。
さすがにバスに乗る気力がなくてタクシーを使った。
家に近づくにつれて、身体がズキズキ痛みだす。
変な緊張感。
タクシーを降りて、階段を昇った。
きのう、あたしが落とされた階段。
足音を立てないように、そっと玄関の前までやって来る。
扉に耳を当てて、中の様子を伺った。
……静か…。
良かった…、いないみたい。
自分の家なのに、中に入るのをためらうなんて笑える…。
鍵を開けて、中に入る。
ワンルームの小さなあたしの部屋。
薄暗い部屋の中、夕日が差し込む。
西日に照らされて、中尾が映し出される。
「…あ…」
背筋が凍る。
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