♯3 麻痺。

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「お世話になりました。」 看護師さんたちに、ぺこりと頭を下げた。 伊木航平は、居なかった。 手術中らしい。 あの先生、そんなこともできるんだ。 と、感心した。 病院を出たところで、足が止まる。 ……どうしようか。 でも…、行くとこなんてないもん……。 自分のアパートに帰るしかないよね…。 さすがにバスに乗る気力がなくてタクシーを使った。 家に近づくにつれて、身体がズキズキ痛みだす。 変な緊張感。 タクシーを降りて、階段を昇った。 きのう、あたしが落とされた階段。 足音を立てないように、そっと玄関の前までやって来る。 扉に耳を当てて、中の様子を伺った。 ……静か…。 良かった…、いないみたい。 自分の家なのに、中に入るのをためらうなんて笑える…。 鍵を開けて、中に入る。 ワンルームの小さなあたしの部屋。 薄暗い部屋の中、夕日が差し込む。 西日に照らされて、中尾が映し出される。 「…あ…」 背筋が凍る。
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