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教室内を静寂が包む。
瀬良の腕の中で田中はもそもそと何事か呟いた。
「ごめん…ごめんな…」
「倖…?」
「初めは…遠くから…見てるだけで…幸せだったのに…あの保健室の時以来…一緒に寝たり…することが嬉しくて…あんなに遠かった椎葉が…今はこんなに近いのが嬉しくて…」
田中はポロポロと涙を零す。
「他人の…恋愛を見守るはずの腐男子が…自分が恋をした、なんて…腐男子失格だけど…
それでも、
椎葉が…好きなんだ。」
「好き」と言葉が出た瞬間、幸せそうに微笑んで再びムニャムニャ寝言に戻った。
顔が赤く、ぐったりしている。
恐らく熱に浮かされた無意識の言葉だろう。
無意識、つまり本音だ。
「……名唐。」
「"先生"を付けろ馬鹿者。」
俺の名前を初めて呼んだ瀬良の表情は俯いていて伺えない。
だが、しっかりと力を込めて抱くその腕こそが全てを物語っている。
「瀬良…もう、心配ないな。」
心配ない。
瀬良よりも脆くて弱い田中倖という存在が瀬良を強くした。
俺が教師という職に就いて知りたかった答えは、こういうことだったのかもしれない。
「名唐、邪魔だから教室から出ていけ。」
……………ん゛?
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