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無限に広がる蒼穹。地球を焼く日射し。
そんな、雲一つない快晴の空の下、なんの変哲もない住宅街を、学ランを着た一人の少年――いや、おれこと神崎水月(カンザキミヅキ)は学校への道をゆったり歩いていた。
「いい天気だな……やな感じ」
とりあえず、おれは晴れが嫌いだ。
そして、雨が好きだ。
自己紹介の時に言ったら、「いきなりそんなことを言われても困る」と囃(はや)されたが、好きな物は好き。これ不変の真理。
快晴といっても昨日は雨だったので、水溜まりはポツポツと点在している。
ほら、そこにも水溜まり。
おれの眼前には、大きな水溜まりがあった。
そこは地盤沈下の影響で広範囲にかけて少し凹んでいる場所である。
凹んでるといっても、車も自転車も普通に通れるくらいの小規模なものだが。
おれはこの水溜まりが好きだ。
……友達にはガキとか言われた。
水溜まりを上から覗き込むと、少しくせがかかった黒髪を、ワックスで簡単に立たせた、中性的な顔立ちをしている細っこい少年が見える。
……認めたくないが、これはおれだ。
付け加えると、身長百六十一センチで体重五十キロ。つまりちびのモヤシっ子だ。
おれは一瞬止まるが、すぐに歩きだす。
その時、後ろから聞き覚えのある声がした。
「お、今日は早いな水月」
後ろを振り返ってみると、悪友である柳瀬凰(やなせおう)とオタクの友達である佐藤始(さとうはじめ)が何やら驚いた顔で突っ立っていた。
ちなみに、おれも若干オタクだ。
そして俗に言う、恥ずかしい……いやカッコイイ言葉を連発してしまう厨二病患者だ。
喋ったのは、染めたショートミディアムの金髪をツンツンと程よく立たせてピアスをしている、無駄にイケメンな凰。
スッと通った鼻梁(びりょう)に、目力があるがどこか優しげな雰囲気の瞳。
身長は百八十センチ前後で筋肉質だが細く、学ランではなく着崩したYシャツを着用していた。
凰は端から見れば――特に頭から――軽薄そうで、とても真面目には見えない。つまり見た目チャラ男である。
だが、性格は優しいし一途らしい。
しかも運動も勉強もできるからモテるモテる。
この中では1番の常識人だ。
ちきしょう。
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