別れは出会いの前兆

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『なぁ、爺ちゃ…独りにしないでよぉ…』 女の子が涙を浮かべ今にもこぼれ落ちそうになるのを耐え、床に伏せる老人の手を握っている。 老人は僅かな力を振り絞り空いている手を伸ばし涙を拭うと口を開く。 『ワシが逝ってもお前は独りではない…地の管理者と鉱物神に会いに行け…大丈夫じゃ…お前がゲフテトに行けるようにマカミ様がしてくれる…ほれ、泣くんじゃないぞ』 涙を拭う手に頬を擦り寄せ、老人の言葉を受け止め頷く。 『…うん…わかったよ、爺ちゃ…』 老人に心配をかけないよう笑みを作り答えると老人は安堵し優しく微笑む。 『いい子じゃ、それでこそワシの孫…心置きなく逝けるのう!』 現実的な一言に顔は強張り苦笑いで女の子はボソッと囁く。 『ソレ、面白くないよ…』 してやったと言う顔で老人は笑うが長年生きていた老人への覚悟のように聞こえて女の子は胸が痛んだ。 『まだお前がお子様だからじゃ、長生きするんじゃぞ…タ…オ……。』 老人は最期にそう女の子に告げると眠る様に生を終える。 力を失った手は床に落ち、女の子はその手を布団へ戻し…一粒の涙が頬を伝い床に零れた。 『爺ちゃ…お疲れ様…』 老人の葬儀は大々的に行われ、多くの同族が老人の死を悲しみ、涙を流してくれた。 老人の名はタイラ…若い頃は狗族の中でも一、二を争う強さを持ち、気さくで人望があり慕う同族も多く"長"の教育係として尽くした一人。 任期を終えてからふらりと行方をくらまし、帰ってきたかと思えば女児を連れていた。 「ワシの孫じゃ」と言われれば誰も女児について咎める事なく受け入れ、タイラの孫として育っていく…狗族にしては力が弱く開花せずにタオは成人を迎え…それを待っていたかのようにタイラは亡くなる。 葬儀が終わり数日の事、唯一の肉親を失ったタオは毎日のようにタイラが眠る墓に花を供えに来ていた。 →
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