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大臣は、政治家や官僚がそうであるように、察しが良かった。
通された応接室は、宮殿の構造から考えて、来客が待つ部屋から最も遠く、お茶を準備するまでの待ち時間がついた。
今回の蛾の処分に、この国の首脳陣は満足しているということだろう。
仕事は疎かにしないに限る。
ソファに座ると、マーズも向かいに座った。
「バクーレスは、卵は自分のものだと言ってる。
でも、あいつなんか…タックがいなきゃ見つけられっこない!」
行方不明の兄の名を久々に聞いた。
しかし、同名だろう。珍しい名前ではない。
「何歳なんだ、お前は」
「卵から孵って半年」
「成長が早いな…」
頭の中で、辞典の卵から産まれる亜人のページを繰る。
「いや、擬態もあるか」
「擬態って」
「正体と違う姿に化けることだ」
「それだと思う」
頭の中の辞典を閉じた。
揃ったキーワードから、一つの怪物を思い描く。
しかし、それは珍奇すぎる。
「アリスン、オレは実験材料にされるのはイヤだ。
タックを探したい。
オレの親はタックなんだ」
…刷り込みのようだ。
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