桜の下で…

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『…ところで何処に行くのだ?』 屯所を出て少しすると斎藤さんが尋ねてきた。 『私の取っておきの場所です!』 高鳴る胸を押さえ、斎藤さんを案内する…。 『着きました!』 『どうですか斎藤さん?綺麗でしょ!最近疲れている様でしたので、気分転換にと思って!』 丘を登ると一本の枝垂れ桜が咲く…私のお気に入りの場所。 『あぁ……綺麗だ…な…』 そう言いながら微笑む斎藤さん… そんな斎藤さんを見て私も嬉しくなり、笑顔になった。 『良かった、喜んでいただいて…。斎藤さんあまり思い詰めていると、疲れちゃいますよ!』 とちょっと意地悪く言ってみた。 『……そうだな…あんたが居てくれてよかった…ありがとう…』 俯きながら喋る斎藤さん。 紺色の髪の隙間から見える耳が赤くなっていた…。 しばらくして 『…千春、そろそろ行こう、春とは言えまだ寒い…』 私は『分かりました』と答えると斎藤さんが隣にきて 『…今日は、ありがとう』と小さく呟いた。少し照れていたのだろか、顔が赤くなっていた…。 帰り道、急に斎藤さんが立ち止まり私に『…下がれ』と言ってきた…。すると前から、 『こんな所で幕府の犬が何をしている』 と声が聞こえ、前を見ると… 『…風間千景……。』 私の鼓動は、急に早くなり息が苦しくなった… 『!!!!』 声に反応して斎藤さんが私を見る… 『何故、奴を知っている…話した事は無いはずだが…』 斎藤さんの質問に答えるより先に風間が口を開く… 『ほう、貴様も一緒か千春、鬼のなりそこないが幕府の犬と一緒だとは、笑えるな』 『どういうことだ』 今にも腰にある刀を抜き出しそうな斎藤さんが目に映るが、私はとてつもない眩暈と吐き気に押し潰されそうになっていた… 『まだ話してはいないのか、いや知らぬのか…俺の前から姿を消したと思えば、記憶を無くし幕府の犬と一緒にいるのだからな』 『!!!』 朦朧とする意識中で、斎藤さんの顔が、一瞬だけど動揺したように見えた…。 『まだ思いだせぬか、仕方が無い俺が貴様の記憶を思いださせてやろう』 『………!い…や…だ…』 身体と心が恐怖で言うことを効かない…叫びたかったが声が上手く出せない… 『斎藤やら、そいつは鬼のなりそこないだ、だが俺とは違い純潔な者ではない、鬼もなれず人にもなれない、鬼のなりそこないが貴様の横に居る千春だ』 『!』
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