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「神無木くん、どこから来たの?」
「夕凪市って観光で有名なんだよね? やっぱり栄えてた?」
「別に」
「やっぱりこっちには親の転勤とかで来たの?」
「あ、携帯持ってる?」
「あのさ……僕に構わなくていいからさ、放っておいてくれないか」
†
あの馬鹿、最初っから今と変わらない……いや、今よりひどかったんだよな。
誰も寄せ付けない、他者を拒む雰囲気……。
当然。
啓介の周りには誰もいなくなった。
俺だってそうだった。
男は啓介を生意気だと言って、女は啓介を気持ち悪いと言い出した。
啓介はいつも独りで、本を読んでいた。
昼休みにはどこかへ消え、放課後は誰もいない教室で空を眺めていた。
俺と啓介が初めて言葉を交わしたのは、夕陽で黄昏色に染まった教室の中だった。
†
「もういないって、何だよ……?」
「そのままの意味だよ。理解してくれ、口にもしたくない」
「っ。死――」
「言うな。もういいだろう? 帰るから」
†
最悪な気分だったな、あの時は。
それから、俺は啓介と関わりを持ち始めた。
多分……同情とか、罪悪感から。
だけど、何よりも――。
「啓介の笑った顔が――見たかったんだよな」
俺はそう呟いて、屋上へと繋がる扉を開いた。
途端に太陽の光が襲いかかり、春とは思えない熱気が俺を包み込む。
そのまま扉を閉め、その場に座り込んだ。
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