親友の為に

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「香澄と玉乃井さん、何だか不満そうだったよ?」 「あ~だろうな」 桂木とふたりで、屋上のフェンスにもたれながら言葉を交わす。 時折吹く春らしい涼しげな風が俺達の髪を撫で、ゆっくりと通り過ぎて、空へと消えていく。 桂木はその度に、綺麗な黒い髪を押さえ、風を見送るように空を見上げていた。 俺も一緒に空を眺め、少し、横目で桂木を見つめる。 彼女は――本当に綺麗だ。 「ねぇ」 「っ……ん、何?」 不意に視線がぶつかり、慌てて桂木の瞳から逃げ出してしまう。 くっ……何というへたれ具合。 啓介にはよく『リア充』とか『主人公』とか言われるけど……我ながらびっくりなへたれである。 うわ、情けないなぁ。 「何で神無木の家、内緒なの?」 「別に内緒ってわけじゃないんだけど……啓介は知られたくないんだってさ。で、俺はあいつに口止めされてるんだよ」 「ふぅん……。何で知られたくないのかな?」 「だってあいつ矢野先生の自宅に居候してるしな」 「…………そうなの?」 「ああ――……って俺は今何を言った!?」 「えっと、神無木が」 「啓介が?」 「矢野先生の自宅に」 「矢野先生の自宅に?」 「居候してる」 「居候してる……わけが無いじゃないかぁ。桂木は冗談が下手くそだなぁ」 「東雲のごまかし方が下手過ぎて涙が出そうだわ……」 やってしまったぁぁぁああ!
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