親友の為に

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僕は叫んだ。 陽も沈み、街灯しか輝いていない、静かな住宅地で。 晃の家の前で。 インターホンも押さずに、晃の名を叫んだ。 呼び出そうとしたが、勢い任せに飛び出してしまった為、携帯を家に忘れてしまったのだ。 我ながら、何というか、間の抜けた話である。 おかげで晃の家まで全力疾走する羽目になってしまったじゃないか……。 今すぐ死んだ方が楽になるんじゃないかと思えるぐらい、体が悲鳴をあげていた。 だが、取り敢えずまだ死ぬわけにはいかない。 晃の馬鹿に、一言だけでも言ってやらないと――。 「啓介!?」 文字通り必死に息を整えようとしている時、晃が慌てて玄関から飛び出してきた。 僕は晃を睨み付け、言葉を紡ごうとするが、 「お前――うぇ、はぁ、はぁ、いい加減に、ゴホゴホ!」 無理だった。 ちょ、待って……予想以上に僕の体は軟弱らしい。 軽く傷付くことが発覚してしまった。 晃は家からスポーツドリンクを持ってきて、僕に手渡す。 「お前、どうしたんだよ、いきなり」 「晃、話がある」 スポーツドリンクを一気に飲み干し、僕は改めて晃を睨み付けた。 多分、今までに無いくらい憤怒の表情を浮かべていたと思う。 晃は一瞬、驚きに身を硬くしたが、直ぐにいつもの様な微笑みを浮かべた。 「何だよ、話なんて、いつでもウェルカ――」 「桂木のことだ」 「…………え?」 「お前、どうして桂木の告白を断った?」 「何で……知って」 「僕と桂木は、知人だ。増して、断った理由に僕が含まれているなら……僕に連絡が来るのは当然だろう」 晃の顔に、いつもの笑顔は存在しない。 言葉を重ねる度に。 言葉を交わす度に。 晃の表情は青ざめ、硬くなっていく。 「晃、答えてくれ。どうして、桂木からの、告白を断った?」 「そ、それは……お前との――」 「約束したから、なんて言ってみろ。僕はお前に幻滅するぞ」 「――っ」 言うつもりだったな、この馬鹿野郎。 表情で分かるんだよ、お前のことぐらい。 「この前、僕は好きにしろって言った筈だ」 「……好きに、したさ」 「その結果が今か? お前、今、幸せなのか? 好きな奴から告白されて、断って、好きな奴を傷付けて――……そんな今が、晃の望んだ結末か?」
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