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結局。
進藤は千鶴姉に迎え入れられ、僕の自室に上がったわけだが。
勉強会は何だかギスギスしてた。
主に、花村と進藤と玉乃井の辺りが。
僕は胃がキリキリしていた。
常に。
お茶を取りに階下に来てみれば千鶴姉が、
「楽しそうね~?」
と黒い笑顔を浮かべていた。
本当に胃が痛かった……。
そんな一日を終えて、僕は今、ベランダで夜風に当たっているわけだ。
もうすぐ、夏がやってくる。
頬を撫でる風はとても涼しく、疲れ切った体にとても優しかった。
「何だか、本当に思い通りにいかないな……リアルは」
今までを振り返り、そう呟いた。
色々なことがあった。
夕凪市で美月さんを失って、家族を失って。
逃げるように美都市に来て。
千鶴姉の笑顔に救われて。
晃と出会い。
美都学園で花村や桂木、進藤や玉乃井と出会った。
花村のせいでリア充を演じることになって。
その過程で学園新聞事件が起きて、進藤に告白までされた――。
僕は変わってなんかいない。
だけど、僕を囲う世界は何だか変わってしまったようだ。
とても居心地が悪いな。
だけど、どこか懐かしい。
「……本当、リアルは僕に優しくないよな」
もうすぐ、夏が来る。
きっと去年よりも暑い、猛暑になるだろう。
だけど、それだけじゃない。
きっと今までとは違う夏が来る。
嫌な予感がするからな。
僕の嫌な予感はよく当たるんだよ。
だから、間違いないんだろう。
そんな僕の脳裏に花村や、進藤や、玉乃井、そして千鶴姉の顔が浮かび、そして消えていく。
「本当……どうかしてるな――」
短い春は終わりを告げる。
そして夏が来て、秋を経て冬を迎えるのだろう。
来年の春。
僕は……何か変わっているのだろうか?
何だか、それだけは少しだけ、楽しみだな――。
†
『春は短し恋せよオタク!』
共通ルート。
END――
†
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