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夏野 一(ナツノ イチ)、都内の私立高校に通う二年生である。今はマンションに一人暮らし。 2年前、彼は家族から消えた。 『一人で暮らします、よろしく。』と書き置きを一枚残して、さっさと家を出てしまった。 彼の実家はイタリアにある。父親はイタリアのサッカー二部リーグのとあるチームの監督である。日本での監督の才能を引き抜かれ若くして渡欧した。 母親はいない。 と言うより、物心ついた時からいなかった。 特には気にせず今まで生きてきた。そういうものなのだと、一つの事象として見てきた。 父親は忙しいし、母親はいない…、そんな生活をしてきた彼には家族というものがどんな意味を成すものか分からなかった。 ただ、彼は祖父母が好きだった。 彼の父方の祖父、祖母は共に音楽が好きだった。それこそ日本の民謡からハードロック、オペラなど多種多様、幅広く音楽を好んで聴いていた。 祖父母は当然日本人であるが、彼らが生きていた時代の母国を嫌っていた。そして渡米して結婚した。 一は小さいころから祖父たちとレコードやCDを聞いたり、色々なライブに行ってみたりした。 そんな祖父母を一はかっこいいと思ってたし、彼の音楽嗜好は父方の祖父母譲りのものだと無意識に感じていた。 そんな一はロックな生き方がしたかった。 だからとりあえず家族から消えてみることにした。
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