誕生

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私は分娩室から隣の手術室に車椅子で移されました。 看護師たちが慌ただしく準備を進めています。 今までそばについていてくれた助産師から看護師にバトンタッチされたわけです。 私はその間もずっと陣痛に耐えていました。もう経膣分娩は無理なのだから陣痛なんかなくなって欲しい!そう思わずにはいられないほどの激痛でした。 そんな激痛に耐える私に、看護師の1人が同意書にサインを求めてきました。手術である帝王切開自体の同意書と血栓防止ソックスの購入に関しての同意書でした。 帝王切開の同意書ならまだしも、血栓防止ソックスって…、いくら帝王切開の人しか使わないからって…今じゃなくてもいいだろー!!って正直思いましたが、痛みでそんなこと口にする気力もなく、大人しくサインしました。 その後執刀医と助手、麻酔医の全員が揃い手術が始まりました。 局所麻酔なので妙に感覚だけがあって気持ち悪かったです。 しばらくして上の方にぐっと押し上げられるような感覚のあと、執刀医の『出るよー。』の声と共に看護師たちの『おめでとうございます!女の子です!』の声。 その言葉より何より早く詩織に泣いて欲しくて、『泣いて!』と祈るような思いでいました。 羊水等を多少飲んでいるので、それを吸い出すような音がした後、詩織は大きな声で泣きました。詩織が自分で呼吸を始めた瞬間でした。 今でもその時の言葉では言い表せない、なんとも言えない気持ちが鮮明に残っています。 本当に嬉しくて、幸せでした。 それからの私はホッとしたからなのか、麻酔を強められたからなのか深い眠りへと落ちていきました。 .
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