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「お前危なっかしいからなぁ、この前も街で不審者に絡まれてたし」
「ちょっ、だからあれは違うって言ってるじゃん!」
「あーはいはい、そーゆーことにしといてやるよ」
明らかにアタシの言葉を信じていないグレイスは、軽くあしらうように鼻で笑う。
それが無性にムカついて、アタシはムキになって「だからっ」と再度説明を試みようとした──その時。
グレイスがいきなりバッと後ろを振り返った。
あまりに急なことでアタシは足を止め、思わず固まってグレイスを凝視する。
しかし数秒もしない内に、グレイスはアタシに向き直った。
「なっ、なに?」
ゴクリと唾を飲み込み、緊張の面持ちで口を開く。
しかし返ってきたのは、それはそれは殴りたくなるような答えだった。
「悪ィ悪ィ、いい女が居たもんでつい」
ヘラっと笑ったグレイスに悪びれた様子はまったくない。
それどころか、何事もなかったかのようにまた歩き出して。
アタシが顔をひきつらせていれば、グレイスは軽く振り返ってニヤっと笑った。
まるでイタズラに成功した子供みたいに。
「冗談だ冗談、マジになんなよ」
「なってないっ!!てかっ、冗談に聞こえなかった!?」
「冗談だし何でもねーよ。まぎらわしいことして悪かったな。気ィとりなおして行くぞー」
また歩き出したグレイスは飄々としていて。さっきと何ら変わらない背中からは、いつも通りのグレイスに見える。
……本当に冗談だったらしい。
冗談に騙された悔しさを噛みしめながら、とりあえずアタシも歩き出した。
「…………」
前を行くグレイスが、険しい表情だったのには気づかなかった。
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