9人が本棚に入れています
本棚に追加
「とりあえず目ェ覚ましたし、お前の母親呼んでくる」
そう言うと、グレイスは踵を返しドアに向かった。
そのまだ幼さの残る小さな背中を、イヴはただ見つめた。
よく理解しないまま、それでも頭のどこかで、一人になりたくないと思ったのだ。
するとそんなイヴの視線に気づいたのか、グレイスは振り返り、イヴを安心させるように笑いかけた。
「心配すんな。すぐ戻る」
それだけ言うと、グレイスは部屋を後にした。
イヴは不思議と、その言葉をうのみにし、安心を覚えた。
部屋を出ると数歩歩いた所で、グレイスは小さく、誰にも聞かれることなく呟いた。
「……お前だけは、守るっ」
強く奥歯を軋ませ、グレイスは固く目を閉ざす。
まるで誓いをたてるように言い放つと、ゆっくりと目を開き、また歩きだした。
強い瞳と確かな歩みに、もう迷いはなかった。
そうしてイヴが記憶をなくしてから、グレイスは両親不在のため、居候としてカンティーナ家に住んだ。
イヴの母、レイラ・カンティーナは穏やかな人柄と持ち前の包容力で、2人の子供に最大限の愛情をそそいだ。
そんな愛情をもらいながら、2人は次第に"幼なじみ"のように打ち解け、6年の月日が流れた。
そして今、運命は大きく軋み、歯車は回り始めた…──
最初のコメントを投稿しよう!