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入って来なさい、という九条の声の後、少し間を置いて扉が開いた。
クラス中の視線が扉へ集まる。
「ッ………暗ぁ…!!」
教壇へ向かう転入生を見た静流は、思わず大変失礼なことを口に出した。
声には出さなかったものの、クラスの大半の者がそう思っただろう。
え?転入生──洋八が暗いだって?
そう思ったあなた!!
…この容姿を見れば分かるだろう。
教壇に上がったのは、長髪の人。
前髪も長い。
リュックサックを抱き締めてプルプルと震えている。
学ランを見てやっと男だと分かった。
九条は生徒達の反応を見て必死に笑いを堪えている。
「ククッ…それでは…っ…自己紹介を」
最早堪えていない。
九条に促され、長髪な洋八はコクリと頷いた。まるで本当に暗く大人しい転入生だ。なんという演技力。というより転入初日からよくそんなことが出来るな。
まぁ、だからこそ、このクラスに入ったのだろう。
全員が、心配そうな面持ちで洋八を見つめる。否、零と小愛持は既に無関心だ。
ふぁっさー
突然発せられた、この緊迫した空気にそぐわない間抜けな効果音。
クラス中の視線は、洋八の頭上。
そこに舞うのは、長髪。
…の、カツラ。
さっきまで無関心だった零と小愛持でさえ目を見開いて注目した。
床にファサ…とカツラが落ちる。
そして再び、皆の視線は洋八へと戻った。
全員が自分へ注目したのを確認すると、洋八は得意の眩しいスマイルを発動した。
「どや、皆ァ!!この登場、めっちゃインパクトあるやろ!?」
「あり過ぎるよ!!ツッコミも追い付かねーし!!」
我慢出来ない男、静流は、思わず突っ込んだ。洋八は満足げである。
「うんうん、ええなぁ、ノリがええわ!早速このクラス入れて良かった思うでぇ!!あ、自己紹介しますっ。俺は大阪から来ました加藤洋八言います。素敵な学園ライフが送れるといいなって思います、よろしくお願いします!!」
賑やかなこと大好きな静流と湊が真っ先に拍手をし、最後にはクラス全体が拍手に包まれた。
「チッ…またうるさい奴が増えやがった」
「むしろ転校しようかな…」
…否、零と小愛持以外。
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