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プロローグ
【オーディション】
季節は梅雨真っ只中。だが、今日は朝から久し振りに晴間が覗いている。蜘蛛の巣が雨雫に濡れ輝き美しい。
新しい生活を始めるには絶好の日和だ。
しっかし…
「…新しい生活を迎えられるかは…、今日に懸かってんねんな」
先日別館にてこの学園への編入記述試験を終え、今日は面接である。それもただの面接ではないらしい。父親は『オーディション感覚で行ってこいや』とエールを送ってくれた。
決戦の時を前にした男──
加藤洋八、高校2年生。
あ、茶髪は印象悪いかなと今更なことを思いながら、新しい生活の場…遥來学園本館へと足を踏み入れた。
────
面接会場である会議室へ歩を進める。今日は学園は休みらしく、歩いている間に誰にも会わなかった。
どこまでも自分の足音ばかりが響く。それが緊張感を一層高めた。
長い廊下を歩き、会議室の扉を前にした。いよいよ運命の時だ。
扉を軽くノックし、『どうぞ』と声が掛かったら失礼しますと言って扉を開いて一礼する。マニュアル通りだ。
静かに扉を閉め、椅子の左側へ立つ。目の前にいる面接官は一人。緑がかった長髪を後ろでゆったりと束ねている。後れ毛が色っぽい。前髪はセンターで綺麗に分かれている。
着流しから覗く上半身が見えなければ女と間違うだろう。ていうか一応面接官なんだから隠そうや!ピシッとせぇ!と心の中で突っ込む。
「どうぞ、座って下さい」
彼の妖艶な低音ボイスに少したじろぎつつ、お願いしますと頭を下げて着席した。
ピンと背筋を伸ばして座る洋八を、彼は机に頬杖を付き目を細めてじっと見つめている。目を逸らしたら負けだとその視線を受け止める。
「ククッ…中々面白そうな人ですね…」
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