専務の野望

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「メキシコ自体に赴任はしないのですか?」 「勿論、視察には行くし、暫(しばら)く滞在することにもなるだろう。だがメキシコは超がつく債務国だ。そんな国に投資するのは危険すぎる」 「投資しない?」 アイスウォーターに口をつけようとした裕司の手が止まった。 「そうだ。身銭は切らない」 「……?」 「失礼します。本日のサラダとスープになります」 祐司が懸命に話を整合させようとする最中(さなか)、ウェイトレスが何やら神妙な空気を察したのか、入り口で戸惑い気味に声を掛けてきた。 「頼むよ。おぅミネストローネか、俺の好物だ」 ウェイトレスの運んできた器を見やると嬉しそうに目を細める専務。 「よし、食いながら話そう」 思考のさ迷う祐司を尻目に専務は早速スープを啜(すす)り始める。 「専務、投資をしないプロジェクトって……?」 「あぁそうだったな。日本政府とメキシコに金を出させる」 「政府に?」 再び手が止まる裕司。 「ODA(政府開発援助=Official Development Assistance)と外務省の国際協力機関のJICA(ジャイカ=Japan International Cooperation Agency)を使う」 「はぁ……」 裕司はついにグラスを持ったまま固まってしまった。
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