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「どうした?」
その様を見遣りながら専務がバスケットに入っていたクロワッサンを小皿に乗せると裕司の前に置いた。
「すみません。自分の想像を超えるお話のようなので……」
裕司は器量を見透かされたようで気恥ずかしかった。
「日本政府は色んな国に円借款(えんしゃっかん)してるだろ」
「はい、中国、東南アジア、中南米などですね」
「そうだ。きちんと契約通りに利息を含めて還す国もあれば還さない国もある。還さない国はどうなるか?。まさか取り立て屋を雇って国ごと揺するわけにもいかない」
「えぇ」
戸惑いながらもバターナイフを持つ裕司。
「借款の原資は当然ながら税金だ」
「仕分けの追求も厳しくなってきてますからね」
「そうだ。国内が財政赤字でパンクしそうになってるのに、見返りの期待できないよその国を助けてる余裕はないだろ。メキシコは累計で2千億円以上借款して、1銭も還してこない。それでも毎年、借款し続けている」
呆れたといった態で首を振ると、スープを啜る専務。
「追求の恰好(かっこう)の的ですね」
応えながら裕司は一片にバターを塗る。少し落ち着いてきた。
「まぁ、もともと還す見込みがないのを知ってて貸してるフシもあるし、人道支援が名目だから還せとは言わないんだけどな。だが政府や外務省は国内的には頭痛の種だな」
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