専務の野望

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「なるほど。少し見えてきました。ODAを使って養殖プラントを建設し、円借款返還の糧(かて)をつくる」 「そんなとこだ。ない袖は振れないし自力での産業発展を待ってても埒(らち)があかない。だったら産業そのものを提供すればいい」 専務は噛み合い出した会話に口許が綻んでいる。 「わかります。しかし養殖の技術はどうするんですか?。マグロの完全養殖は最新の技術でしょうし、我社には分野違いでルートの見当もつきませんが……」 訊ねると一片を頬張る裕司。 「そこでJICAなんだよ。JICAは国際協力の実行集団だ。その道のプロが官民問わず専門家として登録されている。その技術を使う」 「使うと言っても……」 口許を手のひらで隠した裕司が首を捻った。 「勿論、俺達が使えるわけじゃない。メキシコ政府から日本政府にODAの拠出(きょしゅつ)案件として打診させプロジェクト化する。プロジェクトとして成立すればJICAが動く」 「はぁ」 生返事で今ひとつ合点のいかない裕司。 「ただ唯一の心配は案件化されるかどうかだったんだ」 「ODAは環境保全などの人道(じんどう)支援が名目ですからね」
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