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その声で現実に引き戻された気がした。
「はい、島川ただいま!」
「行くのか?」
「ああ。」
「んじゃ、島川一飛曹の武運を祈って・・・敬礼!!」
三人は瞬時にして真剣な顔つきとなり、脇を閉めた海軍式の敬礼を決めた。
島川も返礼をしようとするが・・・・・・・。
「おい・・・。」
「どうかしたか?」
「貴様等の餞別とやらで手が塞がって、返礼が出来んのだが・・・。」
右手の全ての指に挟んだラムネと、左手いっぱいに抱え込んだ菓子類を強調してみせる。
途端に、四人の顔つきは元に戻り、辺りに笑い声が響いた。
「じゃ、改めて行ってくるわ。」
島川は踵を返して、愛機の方へと歩き始めた。
見送る三人は無言だ。
ラムネの瓶同士がぶつかる音が、やけに耳につく。
十数回、飛行靴が甲板を叩いた時だった。
「島川!」
川口の声が響いた。
「その菓子代、実はお前持ちだぁ!
今は俺が立て替えている!
後から耳そろえてきっちり払えよな!!」
島川は、足を止めることなく無言で、ラムネ瓶と右手を高く持ち上げる。
カチンとガラスがぶつかり合う音が、再び空気を震わせた。
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