35人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前も、あの職員だったろ?」
「はい」
「俺さ、皮肉や恨み言の一つや二つは言ってやるつもりだったんだ。でもさ、あの腰の低い、必要以上に気を使ってくる球団職員を見てたら、何も言えなくなっちまったよ。球団側には、上手くやられたな。振り上げた拳を下ろされた気分だ。でもさ、あの職員は俺らの今後を心配してくれたけど、球団は俺らのことなんてどうでもいいんだろうな。球場で言われたのも、なんか納得いかんわ」
一人で吐き出すように喋り通すと、田淵は再び酒を煽る。普段よりペースが早い。それに、酒も美味いせいか、徐々に田淵の口は滑らかになっていた。小倉は、黙って田淵の猪口に酒を注いだ。
「田淵さんは、野球続けるんですか?」
小倉は、思い切って口にした。そのまま、姿勢を正して田淵を注視する。兄貴分のこの男の言葉を聞くことで、自分の中で何かが固まるような気がした。
「俺か」
田淵は、遠くを見るような目をした。
「続けられるかはわからないよ。でもさ、このままじゃ、辞められないだろ。燃え尽きてないっつうかさ。お前もそうだろう?」
最初のコメントを投稿しよう!