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小倉も、野球を続けるかは決めかねていたが、トライアウトの受験は考えていた。仮に結果を出せたとしても、それはクビになる選手達が相手の結果。ドラフト会議前にトライアウトが行われた分離ドラフト時代より、幾分かはマシになったが、それでもオファーが来ることは稀だ。実際は形だけのもので、獲得される選手は事前に声が掛けられていると聞いたこともある。小倉自身、オファーが来るなどとは露ほども考えていなかった。最後に、全力でプレーできる舞台が欲しい。今の気持ちは、それだけだった。
「俺と田淵さんが、対戦することにならなければいいですね」
「そうだな。まあ、オファーなんて来ないだろうし、最後に当たってみたい気持ちもあるがな」
「冗談は止して下さいよ。俺は嫌ですからね」
互いに、喉を鳴らして笑った。それでも、虚しさを隠すことはできなかった。
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