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「たださ、お互い独り身なのはよかったよな。身軽に、まだ好きなことをやれる立場なわけだ」
「田淵さん、歯医者の子とは別れたんですか?」
田淵は、苦々しさを隠さない笑みを浮かべた。
「別れたというより、別れられた、だけどな。気が強かったけど、良い女だった」
しみじみ言う田淵に、小倉は何も言えなかった。小倉には、男女の仲は悪くないように感じていた為、別れたというのは意外だったのだ。
「女々しいからこれ以上は言わないがな、二十代も半ばに差し掛かると、やっぱり独り身は寂しいもんだ。お前な、良い女と付き合えたら、絶対手放すなよ。あと、あまり気の強すぎる女はやめておけ。先人としての忠告だ」
小倉は、既に酔いが回っている田淵の目を見たまま、深く頷いた。田淵も、満足そうに喉を鳴らす。
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