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「酒も頼むから、そっちにある徳利は空けておいてくれ」
それを聞いた小倉は、徳利を傾け、最後の一滴まで田淵の猪口へと酒を注ぎ込んだ。
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その後、小倉は一時を少し過ぎた頃に、田淵と共に寮へと戻った。門限を破ることへの罪悪感からでは、残念ながら決してない。なんとなく疲れ、どちらからともなく、気がついたら帰ることになった。寮長は、玄関の灯りを点けたまま外で二人を待っており、二人を中に入れると、小一時間ほどミーティングルームで話をしてくれた。他愛も無いことだったが、それでも、本気で心配してくれる人間の言葉は、どんなことでも胸に響くものだった。
部屋に戻った小倉は、必要な物から荷造りを開始した。もう、ここには居られないという寂しさは感じたものの、悔しさや憤りなどは、一切出てこなかった。小倉は、自分の気持ちが完全に切れてしまっていたことを、改めて実感させられた。
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