想定内の事態と、想定外の事態

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    1 「あの、小倉選手。お話があるのですが、よろしいでしょうか?」  冷たい秋風が吹き荒れ、街並みの草木が彩り鮮やかな暖色に染まっていく中、小倉崇雄は二軍本拠地での練習終了間際に声を掛けられた。今年本社から来たばかりの、中年の男の、申し訳なさそうな声だった。  もっとも、その声を聞かずとも、小倉はこれから話される内容を察していた。そして、それはシーズン半ばから既に想定していた事態だった。  地元の野球名門校である参河高校から、ドラフト八位で神戸ブレーブスに入団した小倉は、これまで一軍出場は無く、ファームでもレギュラーを奪えないまま三年間を過ごしていた。それでも、二年目以降は途中出場とは言えある程度の出番は得ており、時にはスタメンでの出場も与えられていた。だが、四年目の今季は、シーズン前半からほとんどスタメンの機会は無くなっていた。年齢が遠くなく、伸び盛りの若手外野手達が好調だったのだ。対照的に、危機感を抱いていた小倉はやる気だけが空回りし、少ない代走や守備固めからでの打席でも結果を残せずにいた。
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