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だが、夏場の時点で小倉の打率が二割を下回り、それからは途中出場すら無いも同然となった。それと同時に、入団した時から厳しかったコーチや寮長までもが、小倉に対して気の毒そうな優しさを持って接してくるようになっていた。
「小倉、俺の登板感覚知ってるか? 一ヶ月に一度だぜ」
投手だが、よく小倉を可愛がってくれた先輩の田淵と、出番の無い不安を紛らわし合う際、田淵はよくそう口にしていた。
それでも、小倉は練習で手を抜いたことは無かった。入団当時から続けていた、毎日の早朝練習と居残り練習も、欠かさず参加していた。大きな故障も無かった。それでも、結果だけがついて来てくれなかった。次第にだれてくる心を、小倉は持ち直すことができなくなっていた。
二軍でのシーズン最終戦で、一度だけ、九番センターでスタメンがあった。田淵もリリーフで登板し、一イニングを抑えた。小倉は、自分の結果を覚えていない。フル出場したかすらわからなかった。それほどに、気持ちは切れていた。
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