想定内の事態と、想定外の事態

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「ここです。中に入って下さい」  球団職員は、小倉に身振りで、ミーティングルームの中に入るように促す。小倉は、言葉通りにミーティングルームへ足を踏み入れ、自分と球団職員のぶんの椅子を用意した。 「どうぞ」 「や、申し訳ありません」  球団職員は、額の玉のような汗をハンカチで押し付けるように拭い、小倉からパイプ椅子を受け取った。軋むような音を忙しなく鳴らしながら、二人は机を挟んで向き合いながら、互いの椅子に座った。 「あの、非常に申し訳ないのですが」  球団職員は、目を泳がせながら小さく口を動かす。こんな気遣いが、小倉の僅かに残ったプライドに爪を立てた。 「小倉選手は、足が速くまだ若いのですが、来季の契約を結ばないことが決まりました」  読み上げるような口調の言葉に、思っていたほどのショックは無かった。逆に、気持ちがすっきりしたような気すらする。球団職員は、更に肩をすぼめていた。
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