35人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここです。中に入って下さい」
球団職員は、小倉に身振りで、ミーティングルームの中に入るように促す。小倉は、言葉通りにミーティングルームへ足を踏み入れ、自分と球団職員のぶんの椅子を用意した。
「どうぞ」
「や、申し訳ありません」
球団職員は、額の玉のような汗をハンカチで押し付けるように拭い、小倉からパイプ椅子を受け取った。軋むような音を忙しなく鳴らしながら、二人は机を挟んで向き合いながら、互いの椅子に座った。
「あの、非常に申し訳ないのですが」
球団職員は、目を泳がせながら小さく口を動かす。こんな気遣いが、小倉の僅かに残ったプライドに爪を立てた。
「小倉選手は、足が速くまだ若いのですが、来季の契約を結ばないことが決まりました」
読み上げるような口調の言葉に、思っていたほどのショックは無かった。逆に、気持ちがすっきりしたような気すらする。球団職員は、更に肩をすぼめていた。
最初のコメントを投稿しよう!