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相変わらず腰の低い言葉を聞いても、小倉に落胆は無かった。地元では野球名門の参河高校も、それほど多くの選手をプロに排出しているわけではない。更に言えば、ドラフト八位程度の選手に、球団が一々引退後のポストを用意してくれることはあまり無いのが現実だった。
「自由契約にしてもらえないでしょうか」
「わかりました。けれど、オファーが来る可能性は、こう言うのもなんですがかなり低いですし」
「わかっています。それでも、自由契約にしていただけないでしょうか」
予想できていたからだろうか? 小倉は、自分でも不気味なほどに冷静さを失っていなかった。ポストも用意されていない任意引退を選ぶのは意味が無い。何より、不完全燃焼のままでは、長年続けてきた野球を終わらせられることなど、到底できそうもなかった。球団職員は、目を伏せながら鼻から息を吐き出し、再び小倉を見た。
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