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『そこの暴走車、止まりなさい! 繰り返します、そこの暴走車、止まりなさい!』
後ろから聞こえる怒声に、私は泣いた。
止まれるものなら、とっくに止まっている。
パトカーのサイレンは私たち以外誰もいない山道に響き続けていた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
『そこの暴走車――前方を走っているバイク聞こえないのかッ!! 何キロ出して走っているのかわかっているのか!!』
繰り返される怒声の中、私の意識はこうなる前の回想を始めた――。
―――5時間ほど前。
「いやぁ今日は安かった……」
学校帰り寄ったスーパーで、たまたまタイムサービスに間に合ったことにより、私は上機嫌だった。
「そうだ! 牛肉安かったし、今日は兄貴のためにビーフシチューにでもしようかしら」
私の兄貴は柔道のオリンピック選手だ。
母は蒸発、父は消滅した私の家は、今は私と兄貴の二人暮らし。
兄貴は私のために学費を稼ぐと、柔道で無敗を誇り忙しいのにテレビにまで出演し、ギャラを稼いでいる。
そんな兄貴に私ができることは、料理くらいなのだ。
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