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前を見るとあの男がいた。
相変わらずの黒づくめ。
色白の肌。妖しげな微笑。
男も俺と同じように薄紅色の花びらを指先に挟んでいた。
今日は不思議と恐怖を感じない。
むしろ会いたくて仕方なかったような気さえする。
ゴクリと唾を飲み込んで喉を潤し、一歩一歩男へと車輪(あし)を進ませていく。
男の前で止まる。
男は目を合わせ、口角を少しあげると、前と同じようにブランコの柵に腰掛けて口を開いた。
「咲いたね」
男の視線を追う。
桜の花は満開となり、枝は重たそうに下を向いていた。
「誰かが埋めたのかな・・・」
この前の男の言葉を思い出して、俺は呟いた。
男は驚いた様子もなく、口角をあげて笑った。
「僕が埋めといた・・・」
桜の木を見つめたまま意味深に言った。
「特別綺麗な死体をね・・・」
この男なら本当にやったかも知れないな・・・。
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