狂イザクラ。

15/22
前へ
/85ページ
次へ
前を見るとあの男がいた。 相変わらずの黒づくめ。 色白の肌。妖しげな微笑。 男も俺と同じように薄紅色の花びらを指先に挟んでいた。 今日は不思議と恐怖を感じない。 むしろ会いたくて仕方なかったような気さえする。 ゴクリと唾を飲み込んで喉を潤し、一歩一歩男へと車輪(あし)を進ませていく。 男の前で止まる。 男は目を合わせ、口角を少しあげると、前と同じようにブランコの柵に腰掛けて口を開いた。 「咲いたね」 男の視線を追う。 桜の花は満開となり、枝は重たそうに下を向いていた。 「誰かが埋めたのかな・・・」 この前の男の言葉を思い出して、俺は呟いた。 男は驚いた様子もなく、口角をあげて笑った。 「僕が埋めといた・・・」 桜の木を見つめたまま意味深に言った。 「特別綺麗な死体をね・・・」 この男なら本当にやったかも知れないな・・・。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加