狂イザクラ。

16/22
前へ
/85ページ
次へ
「あんた、何者だ・・・??」 ずっと気になっていたこと。 俺は怖ず怖ずと言葉に出した。 その時、また風が吹いて桜の花が散った。 淡い薄紅の粉に囲まれた彼はとても美しかった。 「キョウ」 薄紅の隙間から声がした。男は静かに自分の名前を告げた。 それ以上もそれ以下もない。 『キョウ』とだけ。 「お兄さんこそ何者・・・??」 キョウの流し目が俺を捕らえた。 緊張が走り、喉の奥がカラカラに干上がった。 「広樹(ひろき)」 やっと声を絞り出した。 キョウと同じく名前だけを告げた。 「いい名前だね・・・」 キョウの瞳は相変わらず広樹を捕らえている。 広樹もキョウから瞳を離さない。 いや。離すことができない・・・ キョウの瞳は長い前髪が邪魔をしてよく見えない。 しかしその隙間から漆黒の瞳は妙に輝いてみえる。 「ふふ・・・」 またこの前のようにキョウが笑い出した。 相変わらず異常な笑い方だ。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加