狂イザクラ。

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この恵まれた生活、恵まれた人生に違和感を感じる。 こんな感情を持つなんて夢にも思わなかった。 自分は"正常"である。 いや、正確には"正常"であると思い込んでいた・・・ あるとき、営業で外回りをしていた俺は、街中で彼を見た。彼は車椅子に乗っていた。 彼は歩道の段差に足を取られ、身動きが取れないようだった。 道行く人は彼を見るものの、大半は横をすり抜けていくだけだ。 心配そうに、そして少し憐れみの混じった視線を投げ掛けるのである。 しばらくして、親切な人が彼に優しく手を差し延べた。 自由になった彼は深々と頭を下げて礼を言う。 『当たり前のことをしたまでなので』 と親切な人が謙遜する。 俺は一部始終を反対側の歩道から見ていた。 何気ない日常の1コマ。 別に珍しくもないだろう。 しかし俺は興奮し、身体が熱を帯びていることに気付いた。 あの車椅子の彼のようになりたいと思った。
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