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「……」
砂嵐舞う大砂漠の中、黒いフードを被った男が一人佇んでいる。
男は右腕をおもむろに挙げると、そこに光る銀色の腕輪に視線を移した。
そのまましばらくそれを眺めていた男。
「トーマ」
後ろから聞こえてきた声に振り向いて応えた。
そこには一人の少女。
魔女を連想させる帽子とローブを身に纏い、手には杖が握られている。
「こんなところにいたんだ。捜したよ」
「エレジィ…」
「ふふ、相変わらず暗い顔してるね。もうここには用はないだろ?早く出発しようよ」
「ああ…」
「……」
少女に促され、少年は踵を返した。
と、その瞬間―
「…!」
しばらく止まる、時の流れ。
「…んふ♪」
少女が爪先立ちをやめた時、時は再び動き出した。
「隙だらけだよ。いつまでもそんな顔していると、またシちゃうからね♪」
そう告げると、少女は少年の襟元から手を放し、背を向けて去って行った。
「……」
突然の出来事に少し驚いた様子の少年だったが、顔を上げると、少女の後を追って歩き出した。
ほのかに温もりが残る、唇に触れながら。
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