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黒い世界に覆われた、荒れた大地を息を切らして疾走する一つの影。
頭部を守るヘルメット、引き裂かれ、ボロボロになった軍服。胸の辺りには数少ない勲章が輝く。
そして手には相手を殺すための道具。
弾はもう少ない。
しかしたった一発でも当たり所によっては簡単に相手の命を奪うことができる。
彼はその場所を知っている。
だが、駄目だったのだ。
いくらこの武器を使っても、これの本来の目的を達成することはできなかった。
そして気付いた。
“あれ”にはこの武器は無意味だと。
この役立たずを持っていてもあれは殺せない。ただの無駄な荷物にしかならない。
だけど、これを手放してしまえば私はすぐに絶望に飲まれてしまうだろう。己を保つにはこれに縋るしかないのだ。
意思のない無生物は、今の彼にとっては唯一の生きる希望だった。
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