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男はいつの間にか立ち止まっていた。
どれくらい走っただろう。足の感覚も忘れ、意識も朦朧としてきた。
ふと、今まで自分が走ってきた道を振り向いて見てみる。
相変わらずの暗黒世界。ほんの数時間前まで楽しそうに談笑していた味方も、覚悟を決めた目で本気で殺しにかかってきた敵も、等しく物言わぬ死体と化して転がっている。
彼らの人生を奪った致命傷の大半が銃創だ。他にも爆発によって手足がもがれたことで、人生を終わらせた者もいるが、誰ひとりとして彼の様に、引き裂かれた様な傷を負った死体はない。
少しの後ろめたさを抱え、彼は霞む視界で遠くを眺めた。
「はぁ…はぁ…」
そこで男は疑問を持った。
おかしい。
さっきまで聞こえていた、見えていた、あれの気配が今は全くない。
もしかして撒いたのか?
あれから逃げ切ることができたのか?
あるいは別の獲物を見つけてそっちに行ったのか?
どっちでもいい。
自分は助かったのだ。絶望に打ち勝ったのだ。
そう考えると男の中で消えかかっていた希望という光が、再び輝きを取り戻し始めた。
「はぁ…ハハッ…ハハハ…!」
自然と笑みがこぼれる。
男の心は安堵感で包まれていた。
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