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しかし、それはほんの一瞬の安らぎでしかない。
彼は気付いていなかった。疲れによって、自分の感覚が麻痺しているということを。
そして彼は気付かなかった。
己の背後から迫る脅威の正体に。
恐怖から解放されて浮かれていた男を、巨大な影が包んだ。
すると、それまで綻んでいた彼の表情がまた、先程の様に恐怖に張り付いた表情に変わる。
彼は気付いたのだ。背後に立つ脅威に。
「あぁっ…」
言葉にならない。恐怖で縛り付けられた男に発せられた命令は「逃げろ」の三文字。
しかしそれを実行することは今の彼には無理だった。
うめき声を鳴らし、獲物を見下ろす怪物の前に、男はただただ立ち尽くすことしかできない。
そんな彼の視界の中で、どす黒い腕をゆっくりと振り上げる怪物。
間もなく、命を刈り取る爪が、男に襲い掛かった。
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