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五時四十五分。
僕達は「勇者一行控室」と書かれた教室の中で緊張していた。
外を見ると、僕達と魔王が戦う場所を空けて、沢山の人が来ていた。
ローカルなテレビ局のカメラマンとスタッフ。沢山の出店。僕らの学校の生徒と、その何倍もの一般人。今年の学園祭でもこんなに沢山の人は集まらなかった。
「こ、こんなに集まるなんて……」
魔法使いの近藤さんはガチガチに緊張していた。彼は市役所で働く公務員で、バリバリのデスクワーク派の人間だけど、フィールドワークになるとすぐに上がってしまうのが弱点だ。
「あ、あの屋台で売ってる焼き鳥美味しそう。終わったら皆で買いに行こうよ」
場違いに能天気な声の主は遠野さん。戦士で専業主婦の彼女は良くも悪くも空気を読まない。
近藤さんはそんな彼女を見てハハハと笑うけど、下崎は不安そうだ。
「あの、もう一回作戦の確認しても良いですか?」
一年生にして我等が私立天昇高校の生徒会長、及び僧侶を勤める下崎理沙。
何に対しても努力を惜しまず真面目で責任感が強い彼女は、何よりも失敗を恐れる。
だから下崎は失敗しない。取り掛かる物事に対して、やり過ぎと思えるくらいの綿密な計画を立てて挑むからだ。
「そうだね、もう一回だけ作戦を確認しておこう」
そして彼等を取り纏めるのが勇者である僕。
生徒会長、専業主婦、公務員を取り仕切るリーダーが何の変哲もない高校生というのは自分でも可笑しいと思っている。
でも皆はそんな僕に文句も言わずについて来てくれる。これは本当に有り難い事だ。
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