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走り出す僕と遠野さん。僕は剣を抜き、遠野さんは僕よりも一回り小さな剣を握りしめる。
「魔王覚悟ッ!」
そして僕等は斬りにかかった。けれど魔王はヒラリと攻撃をかわした。
「お前達が剣を使うなら私も剣を使おうかな」
魔王はそういうとどこからともなく木製バットを取り出した。
……どこが剣なんだ? とか思っているとバットが炎を纏い形を変えていく。炎が消える時には、バットは禍禍しい剣になっていた。
「税込210円のバットも魔王にかかればこの通り!」
その剣で僕に切り掛かってる魔王。剣で受け止める僕。所謂「鍔ぜり合い」の形だ。
その時分かったけど、魔王は僕よりも少し身長が高い。彼女はぐいぐいと僕を押さえ付ける。
やばい。力比べでは勝てない。そう思った瞬間、グンと力が沸いて来た。僧侶の――下崎の加護魔法が成功したんだ!
「うおおおお!」
力一杯押し返す僕。
「おお! やるじゃないか勇者」
ずいぶん押し返したけど魔王は動揺もせず余裕の笑みを浮かべた。
その時、チラッと後ろを見ると遠野さんは下崎と近藤さんの近くにいる。いよいよ作戦開始という事か。
「余所見してるヒマがあるのか勇者?」
魔王が僕の剣を弾く。カキンという音が響いて辺りが沈黙に包まれたけど、僕の心臓は活発に動いていて耳障りだった。
「一対一とは良い度胸だな。
だけど度胸だけでは私に勝てないぞ?」
「さぁ、どうかな?」
僕は強がり言った。勿論、度胸だけで勝てる訳なんか無いし、度胸だってそんなにある訳じゃない。
実際足は恐怖で震えてる。ただ単に怖いのだ。剣を持って切るのも、切られるのも。
でも僕は剣を握りしめる。僕について来てくれて、僕を信じて一緒に作戦を立てた仲間の為にもこんな所でビビってられない。僕は魔王に切り掛かった。
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