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キン! という剣と剣がぶつかる音が何度も響く。音だけ聞けば激しい戦いだが、実際は魔王の一方的な攻勢だ。
下崎の加護魔法で力とスピードは互角になったけど、たった一つ魔王に敵わない点がある。
それは経験だ。
「フハハハハハ! どうしたどうした!? そんなへっぴり腰じゃ豆腐だって切れないぞ!」
魔王はそんな事を言いながら剣を振るう。僕はその魔王の剣を捌くのに必死で、しかも他人を切るという行為にどうしても躊躇いを覚えて、反撃も何か言い返す事も出来なかった。
「ホラホラどうする? これだけの観客の前で赤っ恥をさらすのか?」
そんな風に調子にのる魔王。けど僕にだって魔王に勝っている点がある。
それは仲間がいることだ。
「フハハハハ! 隙あり"ぃ"ぃ"ぁ"あ"あ"ぁ"あ"」
魔王が絶叫する。なんとも情けない声を上げたのは、近藤さんの雷魔法が命中したからだ。
続いて下崎が持っていた杖から光の魔法を放つ。真っ白なレーザーが痺れて動けない魔王の右手から剣を弾いた。
「あっ……」と声を出す魔王。
更に遠野さんが走ってきて追い打ちをかけようとしている。
「上山くん! アレやるよ!」遠野さんが僕に叫ぶ。
「分かりました! アレですね!」
「アレ」と言うのは僕と遠野さんで考えた必殺技だ。
必殺技と言っても魔法みたいな事は出来ないし、特別な効果がある訳じゃない。ちょっとした遊び心で考えた技だ。
「いくよォ!」
遠野さんが高く飛び上がる。
「くっ……そ!」
痺れた体で魔王が僕に炎を放つ。僕はそれを避けて魔王の懐に入りしゃがみ込む。
「はああああ!」
落下の勢いで遠野さんが魔王の右肩から左の腰骨を、
「うおおおお!」
僕は体のバネを利用して右の腰骨から左肩を切り付ける!
「エッジエックス!」
斬撃が魔王の体に×印をつける!
戦士発案、勇者改良、戦士の息子(7)命名の必殺技が決まり、魔王は「ぐわああああ」と断末魔を上げて、仰向けに地面に倒れた。
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