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観客が、ワーッと歓声をあげる。魔王の大音響を遥かに凌ぐボリュームだ。
吹奏楽部は持って来た楽器を吹き鳴らし、応援団はいつ作ったのやら、「必勝祈願! 勇者一行」と書かれた大きな旗を振り回している。
その旗ほど大きくは無いが、「吉吾市役所の星・近藤 正」と書かれた沢山の旗を振る集団や、「お母さんカッコイイ!」という可愛らしい声。
「生徒会長ォー!」という野太い声もあれば、「上山くーん!」という僕を呼ぶ黄色い声も聞こえた。
なんだかいい気分だ。
「えへへ、本物のヒーローみたい。私達」
遠野さんはポーズを決めながら笑顔で観客に手を振っている。観客はそれに応えて歓声を上げる。
確かにヒーローでなければアイドルかプロのスポーツ選手みたいな気分だ。
だけど油断してはいけない。魔王という奴は一度やっつけても第二形態、しつこい奴なら第三形態まであるのだ。この魔王もそうに違いない。
「遠野さん。二人の所に戻っていて下さい。魔王は多分また襲ってきます」
遠野さんはその言葉を聞いて「分かった」と言って下崎と近藤さんの所に向かって行ってくれた。改めて良い仲間に恵まれたなと思った。
観客の歓声がどよめきに変わる。皆気付き始めてるのだ。魔王がまた起き上がる事に。
「クックックッ……」
不気味な笑い声がしたかと思うと、魔王はムクリと起き上がった。観客のどよめきは再び歓声に変わった。
観客のほとんどは面白ければどっちが勝っても良いのだろう。
野球で言えば阪神ファンが楽天と日本ハムの試合を見てる様な感じだ。
「フハハハハハ! なかなかやるな勇者一行よ! 今まで戦ったどの勇者達よりもスジが良かったぞ!」
魔王が例の大音響で叫ぶと観客はまた歓声を上げる。天昇高校始まって以来の盛り上がりだ。
「だがここからは私のお仕置きタイムだ! お前ら全員叩きのめしてやるから覚悟しろよ!」
魔王のその言葉で緊張と沈黙が辺りを支配した。
ここからが、魔王の本気なのだ。
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