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「……どういう意味だ!? 魔王!?」
下崎がこっち側? 「善」よりも「悪」に近いということか?
「分かってるじゃないか。察しが良いな、勇者」
今気付いたけど、どうやら魔王は心も読めるらしい。
……いや、今はそんな事どうでもいい。
「撤回しろ! それは下崎に対して失礼だぞ! 下崎は善神の加護を得て僧侶になるために必死に努力して……」
「だからと言って、それが善だとは限らない」
魔王は口を挟んだ。ふざけるなよ。一生懸命努力した事が悪だなんて、僕は認めない。
「ま、そんな事はどうでもいいか」
そう言った瞬間、魔王は僕の視界から消えた。
そして何かが後ろから僕の首を掴む。
「良いか勇者。僧侶の加護を受けた所で人間は人間。魔王と互角にはなれないんだ」
後ろから魔王の声がした。そうか、僕の首を掴んだのは魔王なんだ。
「そんな……事……」
やってみないと分からない。
そう言おうと思っても、息を吸うことも吐くことも出来なくて声に出ない。
「ふふん、それで良いんだ。勇者」
魔王が僕に顔を近付けて囁いた。吐息が耳に当たって不覚にもドキッとしてしまった。
「その浅はかとも言える不屈の心こそが『善』の証明。勇者の資格だ」
まぁ努力は必要だけどな、と魔王は言って「少し痛いけど我慢しろよ?」と続けた。
……かと思うと背中に激痛が走った。魔王が僕を引っ張って地面にたたき付けたのだ。その時、持っていた剣を手放してしまった。
僕が声を上げる暇も無く、魔王はその剣を取り僕の喉に突き立てた。
「まだ続けるか?」
意地悪に魔王が聞いてくる。こうなってしまえば僕に打つ手は無い。悔しいけど、仕方ないんだ。
「……まいった。僕等の負けだ」
僕のその言葉を合図に今日一番の歓声が上がった。
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