魔王と夕焼け。

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 「あら美和子さん、ごめんなさい。私達この後に用事があるの」  佐伯さんが残念そうに私に言った。私としても本当に残念だった。  「と言う訳で、遠野ファミリーからお母さんにプレゼントがありま~す。」  武藤さんが陽気に呟くと、旦那と息子が小さな紙を渡してくれた。  紙にはこう書かれていた。  『吉吾温泉・無料入館券(3名様、12月まで)』  む、無料……!?  吉吾温泉とはその名の通り吉吾町の温泉なのだが、広くて綺麗で、そして値段が高い事で有名な天然温泉なのだ。  その温泉が無料だなんて……。  「……すっごい! こんなのどうやって見つけたの!?」  「えへへ、ひみつだよ」  興奮する母親とそれを見て笑顔になる息子。パッと見てどっちが子どもだか分からなくなる図だ。  「今日は疲れたと思うから、ゆっくりしてきなよ。ご飯は男で作っとくからさ」  「……ホントに?」  「ホントに」  あぁ、なんて良い夫を持ったのだろうか。今日が結婚記念日だったら文句無かったのに。  「じゃあ、お言葉に甘えて言ってきます! 八時には帰ってくるから!」  思わず走り出す私。自分でも思うけど、本当に子供みたい。二十九歳のくせに。  それと同時にふと思い出した。チケットには三人まで無料と書いてあった事を。  ……それならまた今度家族三人で行った方が良いか。  やっぱり家に帰ろうかとも思ったけど、旦那が料理をしてくれるのだからゆっくり帰ろう。  私は適当に人込みに紛れてブラブラする事にした。
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