魔王あらわる。

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 ケルベロスのお皿にドッグフードを入れる。  愚民どもは「待て」とか言って無理矢理待機させてるらしいが、ケルベロスはそんな事言わなくても待つ。主従関係が成り立っていれば言葉など不要の産物だという事を、人間は知らない。  次は私の食べ物。異空間にしまっておいたサラダの作り置きと紙パックのトマトジュース(本当は人間の生き血でも飲みたいんだけど)を取り出して、洗面台においてあるお皿を念力で呼び寄せてその上にサラダを盛り合わせる。  それらをリラックマのクロスが掛かった背の低いテーブルに置き、部屋の隅のラックからパンとマーガリンとジャムを取り出す。ちょっと腐ってるくらいが、私は好きだ。  地獄の業火でパンを焼くと一秒も経たないうちにパンはこんがりと焼けて綺麗な小麦色になる。魔法を使える私にとって、文明の利器なんて物は哀れな人間の象徴だ。  テーブルの前に、これまたリラックマの座布団を敷く。その上に座って、 「悪神アンラ・マンユと善神スプンタ・マンユ、並びにその他有象無象の御力で今日も食物にありつけました。有り難くいただきます」  食前の祈りは、人間界のルール。そして「郷に入っては郷に従え」というのもまた、愚民どものしきたりだ。だから祈りは欠かさない。それを欠かしては魔界に強制送還されてしまう。  そんな小難しい話は別にして、サラダを頬張る。新鮮で瑞々しくて、太陽の光と農家の人間の愛情をを沢山浴びたであろうレタスは、悪魔の口には合わない。こんなのを食べてる人間の気持ちは全く分からないが、野菜と肉を2:1で食べるのもまた、人間界のルールなのだ。  そんな風に、私が美味しくもないサラダを食べ始めると、ケルベロスも食べ始める。  うん、素晴らしい主従関係だ。
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