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「そうだよ。女の魔王って珍しい?」
眼前の勇者達は、思い思いに頷いた。
大体の勇者は私を見て驚く。なぜなら私は魔王で、女だから。後で話を聞くと、どの勇者も「ゴツいオヤジだと思ってた」と言う。そしてその後には「本当はゴツい姉御だったけどね」と付け加えた。そうして私が知ったのは、身長173センチ体重65キロという数字はゴツいらしいという事だ。
実際、人間界に降りてきている中に限って言えば、女の魔王というのも私以外に聞いた事が無い。だからか分からないけど、私はよくナメられる。男尊女卑の風潮は何も人間界に限ったことではないが、何とかしなければならない。
とにかく、女の魔王が珍しいことであると、私は否定しない。自分で聞いといてアレだけど。
……でも今回の勇者一行も中々珍しい。
制服であろうブレザーを着た高校生くらいの勇者。同じくセーラー服の僧侶。パリッとしたスーツを着た男の魔法使いに、思いっ切り私服の女戦士。魔法使いを除いて、皆私よりも背が低かった。
なかなか個性豊かなメンツだ。中でも勇者は顔も身体も私好み。手篭めにしちゃおうかな。
「魔王って男がなる物だと思ってた…… じゃ無くて!」
そんな端正な勇者は1人ノリツッコミをした後、剣を抜いて私に向けた。
「覚悟しろ魔王! 善神スプンタ・マンユの加護を受けた勇者、上山 真(うえやま まこと)がお前を倒す!」
初対面でここまで言える勇者は中々いない。褒めてやりたいくらいだが、制服のネクタイが曲がっているのはいただけない。――と偉そうなことを考える私もパジャマなのだけど。
とにかく、魔王として私も負けていられない。腕を組んで、仁王立ち。鼻筋を通し、勇者一行を見下ろして、お腹の底から声を出す。
「フハハハハハ! その心意気や良し! 私も悪神アンラ・マンユの加護の力を見せてやろう!」
勇者一行に緊張が走る。僧侶は杖を握り締め、魔法使いは魔導書をめくる。戦士と勇者は剣を構えて戦闘体制だ。
「……と言いたいんだけど、私まだ朝ご飯の途中だからちょっと待ってね」
「へ?」
呆気に取られる勇者。まさか魔王は何も食べ無くても生きていけるとでも思っていたのだろうか。いや、生きていけるけれど朝食を食べるのは人間界のルールである。郷に入っては郷に従え。
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