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「あんた達は朝ご飯食べたの? 食べてないならウチで食べたら?」
私のその言葉を合図に誰かのお腹が「ぐぅ」と鳴った。
善神スプンタ・マンユは朝ご飯を抜かす人間にも加護を与えるのか。世の中変わったなぁ、と同時に思う。やっぱり昔のほうが良かった。
「まぁ、上がりなよ。散らかってるけどさ」
まさか魔王の居城で朝食をご馳走になるとは夢にも思わなかったであろう勇者一行。けれど、サラダを食べ終わってパンに手を伸ばす頃には、彼等はすっかりリラックスしていた。
「まさか魔王に朝ご飯を作って貰うとは思わなかったよ」
スーツを着た魔法使いが言った。四人の中では一番年上の様だ。儒教社会において年上は尊ばれるはずだから、実際のリーダーはコイツだろうな、と私は推測した。
「私もこんな朝早くに勇者一行が来るとは思わなかった」
私が嫌味っぽく言うと勇者は頭を下げて「悪かった」と謝った。自分に非があれば、魔王相手にでも頭を下げる誠実さ。人間社会では美徳だろうね、と密かに馬鹿にしつつ私は溜め息を吐いた。
私はあと何回、この説教をすれば良いのだろう。
「あんた達、何で現代日本に魔王なんてモノがいるか知ってる? 知ってたらこんな事しないだろうけど」
勇者一行は目を丸くして顔を見合わせている。嘆かわしい事に、この2、3年はとにかく魔王を倒せば良いと思ってる勇者が多い。
「良いか? 始まりは私らの創造主アフラ・マズダが人間に忘れられるのを恐れた。
だから、その存在をアピールする為に人間社会に『魔王』を送り込んで、幾つかの人間に善神の加護を与えた事だ」
神の絶対的な力は人間の信仰心に由来する。だから人間に忘れられた神は無力になってしまう。それだけは避けなければならない事態だ。
「で、それに目をつけた人間が魔王と善神の加護を受けた者を戦わせて、その場所に屋台やお店を出して経済の活性化を図った。これが大成功して新しいビジネスになったの」
要は金の為だ。善神の加護を受けた『勇者』も金の為、欲望という『悪』の為に躍らさせられる世の中になってしまったのだ。これについては昔より良くなった。
「私もそのビジネスの為にこの町に来て、あんた達もその為に善神の加護を受けた。だから人目を引く場所で戦わないと意味無いの。分かった?」
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