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私の説教への返事は、僧侶が小さく「分かりました……」と言っただけで、勇者一行は濡れた猫のように惨めに小さくなっていた。そんな一行を見ていると、朝っぱらから嗜虐性がそそられるけど、人間への暴力は基本的に禁止されている。ここで禁を破っては魔王の称号が廃るというもの。だから、ぐっと我慢。すると、
「……近藤さん。今日の仕事、何時までありますか?」
勇者が突然喋り始めた。その言葉には強い意志がある。
「定時ジャストで切り上げたら五時までだ」
コンドウと呼ばれた魔法使いはすぐに答えた。
「参考までに私は年中ヒマだよん」
「ありがとう、遠野さん」
トオノという戦士は成人しているみたいだが、労働に従事していないらしい。最近は女でも社会に出て働くらしいが、こいつは別なんだろう。
「下崎は生徒会の仕事とかある?」
「大丈夫。あったとしても丸投げするから」
対するシモザキという僧侶は未成年の様だが、何かしら働いているらしい。
「よし」
勇者が小さく、けれど力強く言った。
「魔王! 時間を改めて勝負を申し込む!
時刻は六時! 場所は私立天昇高等学校の第一グランド!
これで大丈夫だろ!?」
勇者の突然の宣言に仲間達は驚かなかった。それどころか勇者と一緒に鋭い目線で私を見てくる。
……落ち込んだままでは無かったのか。そう来なくっちゃ面白くない。歯向かってくるからこそ、嫐り甲斐があると言うものだ。
「良いだろう、愚かで哀れな勇者達よ! 出店や物見客への宣伝はやっておいてやるから、首を洗って待っているが良い!」
私がそう言うと勇者は「よろしく頼んだ」と頭を下げて、仲間と共に出ていった。
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