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「……ッ…たぃ…………か…し…てぇ…」
夜のH街に一人の女性が座りながら呻き声をあげている。
女性の風貌は若く、肌も髪にも艶があり顔も整っている。
しかし、おかしな事にこのH街にはこの女性しかいない。
周りはビルが建てられているが劣化している。
酷いところは崩れている建物さえある。
女性は呻き声を発しながら目には光がなく、まっすぐ一点を見つめている。
その時、女性の影と何者かの影が重なった。
「これで最後の取材だ…」〔ジャーナリスト・乃木貴雄〕と書かれた名刺を彼女顔の前に出しながら、
男は女性の耳元で小さく囁いた。
「ほん…とうに」
それを聞い女性は、宙を見ていた目を見開き一瞬で男の襟を掴んだ。
男は驚きはしなかったが、拍子で名刺を手から離してしまった。
無表情のままゆっくりと彼女の手を襟から外し、
「本当だ。ただし、条件がある」
男は襟を直しながら言う。
「なに?」
「”何故”それをしたのか教えてくれ」
「………それだけでいいのなら、いくらでも話すわ」
「…よかった。では、あそこの廃れた喫茶店で話を聞こう」
貴雄は右の人差し指で、左斜め前の30m先にある〔喫茶店ポニー〕と看板が掛けられた店を指差は立ち上がると、貴雄を気にすることなく一人で歩き出した。
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